2020年06月13日

卯の花腐し

 関東甲信越地方が梅雨入りしてから、雨の日が続いている。花盛りの卯の花は、こぼれることだろう。

非凡なる人のごとくにふるまへる後のさびしさは 
何にかたぐへむ  石川啄木

 明治時代の啄木の歌は、当時は新しかったと思う。こういう心情を平明に詠むのは、簡単ではない。現代の若い人たちの歌にも心情を平明に詠んだものがあるが、人間の深みまで歌境が届いているものは少ないのではないか。啄木の歌が、ますます輝いて見える所以である。

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 
花を買ひ来て 
妻としたしむ  同前

 こういうことは、現代でもあるのだが、現代歌人が同様なテーマを詠んだ作例を見たことがない。啄木は自分の心情に対して正直だったと思う。自己戯画化したり、自己演技が煩い現代歌人よりも、歌人としての含羞を持っていたということである。






valery2006 at 22:27|PermalinkComments(0)短歌 

2020年05月31日

とんかつ

 作歌する上で、やはり、語彙は豊富な方がよい。ただ、昭和の時代はいざ知らず、今は、なるべく易しい言葉で歌を作ることが多いようだ。言葉と修辞を放棄した歌が、流行しているように見受けられる。

 語彙を蓄えるためには、小生の場合、語彙が豊富な歌集を読むことが多い。例えば、高野公彦氏の歌集は、語彙の宝庫だ。古い人は、文語訳の旧約聖書や新約聖書が必須な文献という。今は口語短歌が流行っているので、口語訳の聖書を参考にするのがよいのか。小生は文語と口語を折衷して歌に遣っている。無宗教のためか、聖書を手元に置いていない。

 作歌をはじめて二十年ほどの経験からすると、一首の中でひとつの言葉がキラリと光る歌は目立ってしまう。得てして、いい歌には生り得ない。普段の日常生活で遣う言葉が非日常の時空への扉になっている歌の方に、まだ魅力がある。

 作歌の方法のひとつとして、読書に依存する(ブッキッシュな)方法がある。言葉を拾い、言葉をつなぐことに、個性が宿る。新鮮な言葉の連結は、歌に活気を与える。

 作歌のもうひとつの方法として、生活即短歌という思想のもと、散文的な日記調の歌に仕立てることは、おそらく、現代短歌の中軸と思われる。

 その他に先生の歌を真似ることがある。でも、先生はプロの歌人ですので、当然、その語法には、先生の歌でしか成立しないものがあり、それを敏感に把握しないで真似るのは、混乱を招くだけで、歌としても魅力がない。すなわち、真似ることは難しい。



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2020年05月24日

夜の新樹

 今日は晴れ。五月は毎週3連休。出勤 2日、W@H 2日の一週間を過ごしている。非常事態宣言が解除されたので、久しぶりに散髪に出掛けた。おかげで、爽やかになった。

 歌誌『ヤママユ』57号に投稿する今月末が締め切りの原稿に取り組んでいる。一つ目は、エッセイ。前 登志夫の歌の思想をレビューしたもの。原稿用紙で十枚程度。入会したばかりの会員を想定して書いている。おそらく、ベテラン会員には退屈な内容だろう。ゲストの歌人には、塚本邦雄、西行、迢空、に登場して頂いた。

 二つ目は、十五首の歌稿である。連作を作れる数だが、内容的には雑詠が多い。会員の中には、芭蕉などの古典を短歌の連作に仕立てている人もいる。連作の在り方を考えるいい資料だろう。歌を同じところで作っていては進歩がないので、毎回、わたしなりに新しみを試みている。創作のこころが弱ると、前 登志夫のエピゴーネンのような歌に陥ってしまう。独自な文体を獲得するのは、なかなか大変だ。

 『短歌研究』を覗いてみると、人気の若手歌人の歌集が再販され、作者がインタビューを受けている。『ヤママユ』誌上の歌と随分違うが、これが今の傾向なのだろう。自分たちと歌の思想が違うからと言って、目を背けるのは、時代錯誤な態度であろう。まずは、若手歌人の歌を読んでみたい。

 今の歌壇より、前衛歌人の方が面白い。岡井隆氏の古本を読んでいる。なかなか愉しい。歌人の力もあるのだろうが、時代の力も感じられる。高度成長時代と失われた三十年、の後の時代の違いである。ホリエモンのブログを見てみると、もう現代人は働かなくても食っていけるシステムが既に構築されているらしい。これ以上の経済成長は必要ないということなのか。それでは、短歌に打ち込めるかというと、そうでありそうな、なさそうな、不透明な感じがしている。幸い、短歌の世界は先人が近代短歌や現代短歌の歴史を本にまとめてくれている。まずは、近現代の短歌の思想の歴史を学ぶことが先決のような気がしている。時代の空気に流されて、人気とりの歌をつくるだけでは、歌壇の進歩はあるまい。





valery2006 at 17:19|PermalinkComments(0)短歌